脳の機能について

脳には反射や衝動を司る古い部分にのっかって思考を司る新しい部分が加わっているから(ヒトは知覚に使われていた装置を思考に転用したから)、純粋な推論が下手だ。


「進化は一番高い頂きとは異なる山頂(局所最大)で身動きできなくなっていることも大いにありうる」。複数の山あり谷ありの長い進化の過程では、不完全もまた良策ということになる。


「最適にデザインされたシステムならば、信念と推論(やがて新しい信念になるもの)の導出過程は別個に保たれ、両者のあいだを鉄の壁が隔てているはずだ。そのような系では、直接証拠のある事柄と、単に推論で導き出したものをたやすく区別できるだろう。ところが、進化はヒトの心が発達する過程で別の経路をたどった。ヒトが完璧に明示的な形式論理論をさほど内省することもなく、無意識のうちに行っていたに相違ない。リンゴが食べられるなら、たぶんナシも食べられるだろうといった具合に。」


「熟考を要する決断を、意識を持たない反射型システムへと毎度のように委ねるのは賢明な策ではない。反射型システムは脆弱だし、バイアスにもたやすく染まる。反対に原初の反射型システムをすべて捨て去るのもまた愚かな振る舞いである。<中略>反射型システムが日常の処理に優れる一方で、熟考型システムは経験したことのない事態に対処するうえでの助けとなる。」


脳はあり合わせの材料から生まれた―それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ